赤川次郎『三毛猫ホームズの怪談』&『騎士道』

 だいぶ前に読み終えていたんですが、レポが遅くなりました。『怪談』がシリーズ3作目(1980年)、『騎士道』は8作目(1983年)ですね。

三毛猫ホームズの怪談 (角川文庫 (5784))

三毛猫ホームズの怪談 (角川文庫 (5784))

 『三毛猫ホームズの怪談』は、ニュータウンに残った「猫屋敷」をめぐる連続殺人。昔読んだときは化け猫のくだりなど結構ゾクッとしたもんですが、今読むと何も感じないですね。トリックは何ということもなく問題外で、雰囲気で読ませるミステリですかね。ところで片山刑事って女性恐怖症という触れ込みですが、毎回美人にモテモテですね。草食系男子が肉食系女子にあわや食われるというのがおかしみを感じさせるのでしょう。時代を30年くらい先取りした素晴らしいキャラクター付け・・・と思っているわけでは断じてありません。(★☆)
三毛猫ホームズの騎士道 (角川文庫)

三毛猫ホームズの騎士道 (角川文庫)

 一方、『三毛猫ホームズの騎士道』はドイツを舞台とした中世ヨーロッパの雰囲気漂わす「館もの」のミステリですね。そもそも登場人物たちが狙われているのが分かっているのにのこのことドイツくんだりまでやってくるあたりが謎ですが、それは置いておいて、この作品はなかなか本格ミステリとして評価できそうな作品ではないかと思いますね。
 しばしばミステリで見られる手法が用いられていて、クローズド・サークルだけに疑心暗鬼に刈られる登場人物たちをよそに、一見明白な犯人像の影に「意外な犯人」を用意しておく感じで、効果を上げています。まだるっこしいので反転でネタバレしてしまうと、容疑者をあらかじめ死んだように見せかけて舞台から退場させておいて、自由に行動させる「バールストン・ギャンビット」ですね。しかし、最後のどんでん返しを成立させる「鉄の処女」の謎があんまりだったのでちょっと脱力か。(★★★)
 しばらく赤川次郎を読もうかと思っていたんですが、わずか4作にして飽きました。『騎士道』だけは違いますが、それ以外は全部同じような登場人物と事件と雰囲気。無駄に人は死ぬし刑事も死ぬのにユーモア・ミステリーゆえのライトな雰囲気に違和感あります。男女関係のドラマもベタだし、これを何作も続けて読むのはちょっとつらい。
 第一作の『推理』はいいんですよ。猫が探偵という斬新なアイデアがものめずらしいし、密室トリックも豪腕が効いてて面白い。でもその後は飽きる。これは私の思い込みだったんですが、三毛猫ホームズって、ホームズの何気ないしぐさや行動を見た片山が真相に気づくという形式で、ホームズが本当に真相を推理しているかどうかは猫ゆえに分からない、というものだと思っていました。しかし、改めて読んでみるとホームズは完全に人々の会話を理解し、事件の全貌をほぼ喝破したうえで、はっきりと片山に真相を教えようと振舞っています。これは猫であるホームズが人間の言葉を完全に理解していなければ、そして片山すら知らないような事件の裏事情を知っていなければできない芸当です。三毛猫ホームズはただしゃべれないだけの、神のごとき猫であります。よってこのシリーズはファンタジーだといえます。そういった点も私にはつらいところでした。
 なぜ、赤川次郎や西村京太郎や内田康夫はあれだけ売れているのか、熱心な(?)読者を獲得し続けているのか、マニアックな本格しか呼んでいないままでは永遠に分からないその謎を解き明かすべく、赤川次郎にとりあえず取り掛かってみたのですが、謎は解けないまま限界を迎えました。少し間をおいて、西村京太郎でも読んでみようかと思います。