奥泉光『モーダルな事象』

モーダルな事象 (本格ミステリ・マスターズ)

モーダルな事象 (本格ミステリ・マスターズ)

短大で日本文学を研究する桑潟幸一(桑幸)助教授は、かつて文学者事典に自らが項目を執筆したマイナー童話作家、溝口俊平の新しく発見された遺稿について解説を頼まれる。遺稿は瀬戸内海に浮かぶ久貝島という所で燃やされるところを編集者がたまたま回収したという。マイナー作家の未発表童話など誰が読むのかと訝りつつも解説を引き受けた桑幸。しかし溝口俊平の意向との出会いが、桑幸の運命を大きく変えるのだった。

春笑亭猫介の駄洒落(下の日記参照)もさることながら、桑幸の一人称で語られる大学助教授の生活がくだらなくて笑える。この辺、『文学部唯野教授』を髣髴とさせるものがあるが、奥泉光筒井康隆とはまた違った魅力を持つ文章を書く人だとも思います。
桑潟助教授の精神崩壊以外は正統派のトラベル・ミステリー。北海道に行きたくなりました。なんというかあまりに正統派すぎて物足りない感じもしました。しかしミステリとしてはともかく、小説としてはこれほど読ませる作家も久しぶりに出合いました。テンポが良いんだよね。
まあ、正統派にして良質なエンターテインメントではないかと。
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