カント『永遠平和のために』

永遠平和のために (岩波文庫)

永遠平和のために (岩波文庫)

 大学で使用する都合で再読。平和学を学ぶ上でまず読むべき古典である。
 カントは、平和条約によって戦争が停止した状態は「単なる休戦」であり、平和ではなく、「永遠平和」とは「一切の敵意が終わること」であるという。ではそのような永遠平和を達成するためには、どのような条件が必要なのか。カントは永遠平和のための6つの予備条項と3つの確定条項を提示する。
 その中でも特に有名なのは、常備軍の全廃について定めた第三条項であろう。なぜ常備軍は全廃されなければならないのかというと、常備軍が存在しそれに軍事費が費やされればされるほど、そのこと自体が戦争の原因となるからであり、さらに人間の殺傷を目的とする雇用は、人間を道具化することで人間性の権利を侵害するからである。こうした論理は我々にとって、日本国憲法第9条の論理的根拠を考える際に参考になる。
 3つの確定条項は以下のようになっている。

  1. 各国家における市民的体制は、共和的でなければならない。
  2. 国際法は、自由な諸国家の連合制度に基礎を置くべきである。
  3. 世界市民法は、普遍的な有効をもたらす諸条件に制限されなければならない。

 第一確定条項で「共和的」であるというのは、「社会の成員が(人間として)自由であるという原理」、「全ての成員が唯一で共同の立法に(臣民として)従属することの諸原理」、「全ての成員が(国民として)平等であるという法則」を基礎として設立された体制と定義されている。近代的な自由と平等の理念に基づく民主的体制は論理的に平和志向的であるとする議論は多いが、歴史的に見れば(立憲君主制が多いとはいえ)20世紀の2つの世界大戦を引き起こしたヨーロッパ諸国はこの「共和的」体制を備えていたのであって、カントの議論はさらに展開される必要があるだろう。
 第二確定条項は国際連合を目指すというものだ。この書物が発表された18世紀末には突飛な議論だっただろうが、19世紀にはいると各種の平和会議、第一次大戦後は国際連盟、第二次大戦後は国際連合と、カントの理想は200年かけて少しずつ達成されつつあるように思える。ただそれでも戦争はなくならないということは、カントの提示する条件が誤っているということなのか、むしろ正しいがまだ達成されていないということなのか。第三の予備条項の価値を考慮に入れて、後者であることを望みたい。