浦賀和宏『松浦純菜の静かな世界』

松浦純菜の静かな世界 (講談社ノベルス)

松浦純菜の静かな世界 (講談社ノベルス)

浦賀和宏は『記憶の果て』で第5回メフィスト賞を受賞した、いわばメフィスト第一世代の一人である。私は一作も読んでいなかったのだが、世評ではメフィスト第一世代らしい良くも悪くも「壊れた」小説世界を作る作風だという。本作『松浦純菜の静かな世界』は浦賀和宏の最新作。少女が死んだように倒れている表紙はなかなかインパクトがある。

拳銃を持った外国人によって八木剛士と妹の運命は分かれた。彼は奇跡的に無傷で済んだが、妹は植物人間になってしまった。銃で撃たれても死なない男。八木は好奇心剥き出しの他人からの視線を疎ましく感じていた。不意に八木にコンタクトを取った松浦純菜という少女も、そんな人間の一人だと彼は思っていた。しかし彼女は他の人とはどこか違った。大怪我をした傷痕を隠しているのだと言って、いつも手袋を嵌めた彼女は、八木の事件以上に、街を騒がしている連続女子高生無差別殺人事件に異常な執着を見せていた・・・。

本作では主に、八木剛士と松浦純菜の個人的な心情やプロフィールの叙述が大半を占めており、ミステリとしての中核をなす連続女子高生殺人事件についての描写や推理はほとんど割愛されている。事件を捜査する刑事の姿も描かれるが、高校生たちとのつながりがない(事件捜査の内部に高校生主人公が入っていない)ために、警察の捜査が持つ意味はほとんどミステリ的解決に生かされていない。やはり作者が一番書きたかったのは剛士と純菜の心のふれあいということになる。
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