4000ヒット記念

メインページ「きたろーの本格ミステリ雑感」のカウンタが4000ヒットを記録しました。これからもよろしくお願いします。
これだけ書いて何もしないのもアレなので、記念に何か雑文を書きます。
夏に読もう!きたろーが選ぶお薦め本格ミステリ2005
対象は2004年11月〜2005年7月に刊行された国内ミステリです。これで11月の「このミステリーがすごい!」「本格ミステリベスト10」などのベスト本が出る前に、良質な本格ミステリをチェックできることうけあいです。


<今年注目の作家をチェック!>

BG、あるいは死せるカイニス (ミステリ・フロンティア)

BG、あるいは死せるカイニス (ミステリ・フロンティア)

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

まずは以前から良質の作品を出していたが今年はもっとすごい作品を出した石持浅海。『BG、あるいは死せるカイニス』は「男性化」する女性が存在する女性中心社会(裏を返せば男性エリート社会)の中で発生する殺人事件。初期西澤保彦を髣髴とさせる良質なSFミステリです。
そして今年度のベスト上位確実と個人的に思っているのが『扉は閉ざされたまま』。倒叙ミステリですが、静謐な空間の中で繰り広げられる知的対決は、ここ数年なかったほど高水準のロジックミステリだといえます。密室の“扉が閉ざされたまま”推理が進行するという斬新な趣向が素晴らしい。傑作です。

クドリャフカの順番―「十文字」事件

クドリャフカの順番―「十文字」事件

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

米澤穂信もまた、今年ブレイク確実の若手です。『クドリャフカの順番』は学園祭という祝祭空間の中で繰り広げられるミッシング・リンク物の事件を描いており、読者は思う存分理想的なお祭りの中に身をゆだねることが出来ます。このあたり、米澤氏の小説家としての技量の向上が見て取れると思います。ミステリとしての出来も、やや動機が弱いながらも良く出来てます。
そして『犬はどこだ』は短期間で『クドリャフカの順番』から更なる飛躍を見せた驚くべき作品です。これまでのライトノベル路線から一線を画して、私立探偵が主人公の軽ハードボイルドですが、結末まで読んだ読者は予想もしない展開に目を見張ることでしょう。こちらのほうが、ミステリマニアの受けはいいかもしれません。


<ベテランの技を堪能せよ!>

ニッポン硬貨の謎

ニッポン硬貨の謎

北村薫エラリー・クイーンパスティーシュを書いた! それだけでも今年最大の話題作の一つとなる『ニッポン効果の謎』ですが、もちろん話題性だけでなく中身もすごい。後期クイーンに典型的なミッシング・リンクというか無差別犯罪を軸として、間に北村氏オリジナルのクイーン論を織り込み、新本格にとって記念碑的なアンソロジー『五十円玉二十枚の謎』をサイドに散らすという贅沢な構成。ある程度作品を読んだクイーンファンでなければついて来れない敷居の高さのせいで売れはしないでしょうが、マニアなら絶対に読み逃してはならない一冊です。

神様ゲーム (ミステリーランド)

神様ゲーム (ミステリーランド)

麻耶雄嵩の新作は子供向け叢書の<ミステリーランド>から。子供向けとうたいながら、そして総ルビや挿絵などちゃんと子供向けに作ってあるのに中身はかなりどぎつい麻耶節。主人公の子供が「神様」に出会ってから次々と事件に巻き込まれ、人間の力ではどうすることも出来ない運命に翻弄され、物質的も精神的にも主人公を追いつめる壮絶なカタストロフを迎えます。この結末をあなたは直視できるか?


<一読唖然のバカミス!>

『ギロチン城』殺人事件 (講談社ノベルス)

『ギロチン城』殺人事件 (講談社ノベルス)

館島 (ミステリ・フロンティア)

館島 (ミステリ・フロンティア)

あまりに大胆で非現実的な物理トリックゆえに<バカミス>と判断してしまう作品が上の2作。ただしこれは貶しているのではなく褒め言葉だと思ってください。『ギロチン城』のトリックは幾つかありますが、ここまでありえない物理トリックを並べられたら新本格ファン冥利に尽きるといえましょう。もう笑うしかないです。
ユーモア・ミステリの旗手、東川篤哉はまたトリック・メーカーでもあります。『館島』は彼の作品の中でも物理トリックのありえなさでは群を抜いていると思います。トリックの「絵」が脳裏に浮かんだとき、読者はその風景をイメージして爆笑すること請け合いです。


<短編集のお薦め!>

やさしい死神 (創元クライム・クラブ)

やさしい死神 (創元クライム・クラブ)

ゴーレムの檻 (カッパノベルス)

ゴーレムの檻 (カッパノベルス)

今年は例年以上にたくさんの短編集が出ているような気がしますが、良質なものはわずかしかありませんでした。その中でも特にお薦めなのがこの2作です。大倉作品はおなじみの牧&緑シリーズですが、これまでとは打って変わった人情あふれる感動的な作品がそろっています。何より周到に張り巡らされた伏線が、落語のプロットとともに回収されていく本格魂には職人芸を感じます。「タイガー&ドラゴン」で古典落語にはまった方に、田中啓文笑酔亭梅寿謎解噺』とともにお薦め。
そして待望の宇佐見博士シリーズ『ゴーレムの檻』は、作者の企みの深さにただ感嘆するほかない見事な連作短編集。ミステリにおける作者とは何か、文芸表現とは何か、存在とは何か…そういった哲学的考察にまで踏み込んだ独特の世界観は他に類を見ないものだと思います。かなり難解ですが、充実した読書時間になることは保証します。今年の短編ベストはこれでしょう。


長くなったのでこれくらいで。他にもお薦めはありますが、また機会があれば。