第50回九州吹奏楽コンクール(中学校の部)

2日目。さすがに2日連続は疲れましたよ。
お気楽に聴けるならいいけど、中学校の部は高校以上に熱い演奏が多くて、聴く方にも熱が入ってしまうんですよね。九州の中学は全体的にレベルが高い。
代表は次郎丸中学校(福岡)、国分中学校(鹿児島)、東海中学校(宮崎)でした。おめでとう!
全て初出場でしょうか。全国でも金賞が期待できる名演ばかりでした。
代表団体も本当に凄い演奏してたけど、重富中や志免東中、岡垣中も代表に負けない演奏だったと思います。金賞団体だけでなく、銀賞団体の中にもいい演奏がたくさんありました。
以下、各団体の感想。一日置いて書いたので、記憶違いで的外れな意見もあるかも。きたろー的に凄いと思ったパートやセクションには特別賞をつけております(笑)
1.霧丘中学校 (2)パリのアメリカ人(ガーシュイン)・・・銀
朝一番にもかかわらずよく音が鳴っていて感心しました。ガーシュインは楽しい演奏で、不協和音の取り方やさまざまなギミックなども上手く決まっていました。
2.檍中学校 (2)メジャー・バーバラ(ウォルトン)・・・金
金管がスマートに鳴り、かつ木管とのバランスがいい、理想的なサウンド。特に自由曲はアンダーシャフト工場の難しいフレーズなども確実に吹ききれており、また愛のテーマも感動的に歌いこまれ、場面展開が明確で引き込まれました。
3.京陵中学校 (1)セント・アンソニー・ヴァリエーション(ヒル)・・・銀
木管が全体として技術的に弱く、特にサウンドの薄いところになるとはっきりとそれが露呈します。パーカッションの音(特に銅鑼)にも研究が足りないと思いました。反面、Tpは良かったです。全体的に表情に乏しい。
4.玄洋中学校 (2)「3つのジャポニズム」より 雪の川、祭り(真島俊夫)・・・銀
課題曲はTpのピッチがぶら下がり気味でサウンドを壊していました。自由曲で持ち直し、後は素晴らしい音色のフルートの調べと共にあざやかな日本情緒を聴かせてくれました。木管を核とした伸びやかなサウンドも印象的。金賞でも良いくらいの演奏。本日のベスト・フルート
5.美里中学校 (1)スパルタカス(ヴァン=デル=ロースト)・・・銀
やはりTpがいい音色をしています。ここもパーカッションが足を引張り気味で、打楽器の音色や倍音の研究をしたほうがいいと思います。しかし、難曲を見事に吹ききったトロンボーンをはじめとする金管群にも拍手。オリジナルの魅力を堪能しました。
6.武雄中学校 (2)交響組曲第10番「海のオーロラ」より(天野正道)・・・銀
一生懸命吹いているのは分かるんですが、アンサンブルに気を使って欲しいです。サウンドが出来ていませんでした。木管、特にサックスと低音の音が悪いのが天野作品を演奏する上ではかなりネックになりました。新曲に取り組んだ意欲は買います。「脱出」はもっと情熱を込めて歌い上げて欲しいです。
7.加治木中学校 (2)ミュージカル「チェス」より(アルバース/アンダーソン)・・・銀
課題曲最初のやり直しにもかかわらず、最初から最後まで安定したサウンドを維持したのは練習の賜物でしょう。しかし聴衆にも奏者にもどこか不安感を与える演奏になってしまったのはつくづく残念です。自由曲は始めて聴く曲でしたが、ポップス調からオペレッタ風までなかなか多彩な音楽を楽しめました。
8.柏原中学校 (2)第六の幸福をもたらす宿(アーノルド)・・・銀
課題曲2を聴くたびに思うのは、細かいリズムをきっちり取らないと輪郭がぼやけてしまうと感じました。第一主題のメロディーやブリッジ部の三連符などで、このバンドも同様にそうした決め所が曖昧でした。自由曲は表情豊かでフレーズ感が素晴らしく、指揮者の丁寧な(ちょっと丁寧すぎた感じもしましたが)音楽作りにより好演になりました。
9.波佐見中学校 (2)「イーストコーストの風景」より(ヘス)・・・銅
全体的に音色が悪く、またピッチや縦の線など県代表としては最低限合わせるべきところが出来ていませんでした。「キャッツキルズ」はもっと中低音を聞かせたサウンドを作り、「ニューヨーク」ではよりシャープさや華やかさが欲しいです。Tpソロは好演でした。
10.豊陽中学校 (4)交響詩「ローマの祭り」より(レスピーギ)・・・銀
クラリネットの響きが太く、金管を上回る迫力でした。逆に金管、特にホルンはこの曲を演奏するにしては技術的に厳しいと感じました。コンクールとしては「十月祭」は避けるべきだったでしょう。しかし木管を中心とした分厚い音色でスケールの大きいローマの祭りでした。
11.重富中学校 (3)歌劇「トスカ」より テ・デウム(プッチーニ)・・・金
最初から最後まで引き込まれる音楽でした。課題曲は模範演奏や「なにわ」も含めて、これまで聴いた中で最も賑やかな楽しさに満ちた演奏でした。まさしく彼らのストリート・パフォーマンスに釘付けでした。あの楽しさはしばらく頭にこびりついて離れませんでした。一転して自由曲では重厚な「トスカ」。きっちりと形作られた立体的なサウンドがホール一杯に響き渡り、堪能しました。しかし緊張から解放へといたる息の長い難しい音楽を表現しきれていないとも感じました。代表になってもおかしくない演奏でした。本日のベスト・ユーフォニアム
12.席田中学校 (2)喜歌劇「メリー・ウィドウ」セレクション(レハール)・・・金
27人という少人数ながら、高いアンサンブル能力に支えられたクオリティの高い音楽を聴かせてくれました。課題曲2としては少人数のせいかとてもすっきりしていて聴きやすかったです。特にトロンボーンの落ち着いた柔らかい節回しがお気に入りです。自由曲はオペレッタの性格上、もっと積極的で華やかな表現が求められます。しかしpの表現力には目を見張るものがあり、特に「ヴィリアの歌」の美しさはため息ものでした。本日のベスト・トロンボーン

ここから午後の部。午前より明らかにハイレベルに。
13.城西中学校(佐賀) (1)マゼランの未知なる大陸への挑戦(樽屋雅徳)・・・銀
サウンド作りと表現という点では金賞団体に劣るものの、各楽器が自然にそして均一に鳴っており、とても聴きやすい演奏でした。木管がやや弱いのが難点で、自由曲の細かいフレーズがあまり聴こえなかったのが残念。しかし練習の跡がよく窺える満ち足りた演奏でした。
14.志免東中学校 (4)元禄(櫛田テツ之扶)・・・金
今大会最も少ない26名での演奏でしたが、相変わらずの緻密なアンサンブルはため息ものです。こんな演奏をしろといってもプロでも難しいのではないかと思うほどですが、例年に比べるとパートの穴が多いように感じました。特にホルンが全く鳴っておらず、またパーカッションもいつもの志免東とは違って合奏を支える響きのある音を作れていませんでした。最も素晴らしかったのはTpで、つややかで輝きがあり、かつマイルドな音色は中学生の音とは思えません。実にあざやかな演奏でした。本日のベスト・トランペット
15.長嶺中学校 (2)「GR」よりシンフォニック・セレクション(天野正道)・・・銀
いつもながらホール一杯に鳴り響くダイナミックな金管サウンドは魅力的。しかし全体的にちょっと乱暴かなとも思いました。フレーズや音の方向性が統一されておらず雑然とした印象。マーチはアンサンブルが未整理だと感じました。GRは木管に難があり、細かいフレーズが聴こえなかったりサウンド作りが出来ていなかったりするのが気になりました。しかし大迫力の演奏で、金賞でも良かったです。
16.普天間中学校 (2)大阪俗謡による幻想曲(大栗裕)・・・金
全員暗譜、揃いのブルーのコスチュームが印象的。個々の音色の素晴らしさ、そして特筆すべき伸びやかなサウンド、バランスの良さなどなど、いいところのたくさんある演奏でした。大阪俗謡は、ちょっと曲の雰囲気をつかみ損ねている印象を受けました。楽譜通り吹けているんだけど、土俗的な荒っぽさとか大阪らしさが無く、やはりこの曲を九州の人が演奏するのは本当に難しいと感じます。チャンチキや締め太鼓はちゃんと本場のものをそろえなければならないと思います。有り合わせでは大阪のお祭りにはなりません。
17.次郎丸中学校 (2)元禄(櫛田テツ之扶)・・・金・代表
33人という少人数を全くそれと思わせない安定感のある素晴らしい演奏でした。とにかく無理の無い自然な形で響き渡る柔らかなサウンドが素晴らしい。課題曲2はよく整理されており、楽譜がそのまま見えてくるようでした。ダイナミクスレンジも広く、表現も的確で、一言で言えば完璧な演奏。指揮者の棒も流麗で、一人一人の生徒との信頼関係が出来ている事は、演奏を聴けばわかります。皆が音楽を楽しんでいました。あえて欲を言えば、サウンドの種類が少ないので色彩感に乏しい事。さらに思い切った音楽表現を求めたいです。
18.小浜中学校 (4)サーム・オブ・ライフ(メリロ)・・・銀
こちらも35人という中編成で、非常にすっきりしたサウンドを披露しました。中学で課題曲4を演奏したところはいずれもフレーズの処理にそれぞれの工夫が見られて興味深かったです。小浜の4はフレーズ最後の3拍目を長めに取って途切れないようにして、なおかつそれを自然に聴かせることに成功していました。自由曲は初めて聴く曲ですが、聴きやすく心地よい演奏でした。はっとするほどの上手さも派手さも無いけれど、自然体の演奏で好感を持ちました。
19.菅生中学校 (2)喜歌劇「メリー・ウィドウ」セレクション(レハール)・・・銀
課題曲の出だしはいじくりすぎてなんだか変な事になっていました。しかしバランス感覚の優れた、特にハーモニーの内声を重視したシンフォニックなサウンドが非常に魅力的でした。そのためか一昔前の阪急サウンドを思い起こさせるマーチらしいマーチになっていたと思います。自由曲も同じ様なサウンドが続いたので、オペレッタとしては華やかさに欠けた感があります。金賞でも不思議ではない演奏でした。
20.本渡中学校 (1)呪文と踊り(チャンス)・・・銀
金管はなかなかの音でしたが、それに対して木管の音色が追いついていませんでした。バランスの悪いサウンドだったと思います。特にpになったときの木管があまりにも弱々しいと感じました。呪文と踊りのパーカッションは良かったです。
21.山里中学校 (2)3つのジャポニズム真島俊夫)・・・銀
全体的に元気の良すぎる演奏で、pがありませんでした。しかしきちんとサウンド・ビルを作り上げ、かつフレーズ感覚の優れた演奏はとても魅力的です。表現を重視したダイナミックな指揮を展開した指揮者(そのスタイルは加養っぽい)の音楽性は凄いと思います。課題曲はほとんどの団体が躓くピッコロ・ソロをスタンドプレイにしたのが効奏して、ソロが浮き上がって聴こえ、良かったです。自由曲は今年大流行の曲ですが、やはり3曲の場面描写の切り替えが難しかったのではないでしょうか。「雪の川」のサウンドはちと繊細さに欠け、「祭り」はすさまじいパーカッションの音量と各フレーズの自己主張に埋没して、何が何だか分からないほどでした。しかし金賞でも十分な、惜しい演奏です。
22.王子中学校 (3)組曲「ハーリ・ヤーノシュ」より(コダーイ)・・・銀
技術的には他の団体に大きく水をあけられており、特にダイナミクスレンジが狭いです。「戦争とナポレオンの敗北」の静かな部分が特に弱々しく、積極性に欠けました。きたろーの経験からいくと、この難曲を破綻することなく吹ききったトロンボーンは立派です。サウンド作りまでは意識が行っていないようでした。
23.岡垣中学校 (1)バレエ音楽「赤いけしの花」より(グリエール)・・・金
出だしから圧倒的なサウンドでした。特に木管の響きが素晴らしく、バランスよく一体となった木管は、金管の大音量に関係なく鳴り響くものだということを実証しました。自由曲ではその木管がさらに磨きがかかり、テュッティ・サウンドの輝かしさはブラボーもの。特に「クーリーの勝利の踊り」の畳み掛けには興奮しました。低音セクションやトロンボーン、それにサウンドを押し上げたパーカッションの力量も素晴らしい。代表になっても不思議ではない演奏だったと思います。本日のベスト・木管セクション
24.国分中学校 (2)バレエ音楽シバの女王ベルキス」より(レスピーギ)・・・金・代表
全てのパートが素晴らしく技術・表現共に実力を出し切った、圧倒的な演奏でした。課題曲2を細部までアナリーゼできていたのは代表の3団体だけでしたが、表現面で最も積極的だったのは国分中だったと思います。自由曲は懐かしい感じの選曲ですが、古さを感じさせない見事な演奏で、特に金管サウンドには魅了されました。「戦いの踊り」のホルン、難しい事をさらりとやってのける技術にブラボー! 「夜明けのベルキスの踊り」のフルート・ソロは美しかったです。「狂宴の踊り」は木管の音の太さもさることながら、最後までバテずに吹ききった金管セクションが立派でした。
25.東海中学校 (2)吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」より(伊藤康英)・・・金・代表
前2団体が本当に素晴らしい演奏をして、これで代表確定だなと思っていたら、宮崎の雄、東海中学校がまたまた素晴らしい演奏を披露しました。課題曲のスマートな出だしは最も理想的な演奏ではないでしょうか。リズムも厳格に取ってあり、かつサウンドが厚ぼったすぎず、それでいて明るい響きがホール一杯に広がりました。私が思い描いていた理想形の「春風」がここにありました。そして圧巻は自由曲。「祈り」はかなり後半部分まで演奏するカットで、私も演奏した事がありますが全てのパートに高度な技術と音楽的緊張感の持続が求められます。最初から最後まで次々と難易度の高いフレーズが繰り返され、思わず瞬きを忘れるほどでした。「祭り」の最終部につなげましたが、素晴らしいサウンドが最後まで続き、圧倒的なフィナーレでした。金管のスタミナだけが問題でしょうか。

最初から最後まで素晴らしい演奏の連続で、前日の高校の部よりも音楽的な満足度の高い大会だったと思います。プロ顔負けの圧倒的な技術などはほとんどありませんが、素晴らしいサウンドを中心に、これまでの長い練習の成果を全ての団体が出し切り、たとえようのない感動を聴衆に伝えていたと思います。技術の確立した高校以上の部にありがちな、「上手いんだけどどこか物足りない」というような演奏はありませんでした。その意味で、全ての団体に素晴らしい演奏をありがとうと感謝したいです。