連城三紀彦『人間動物園』

人間動物園 (双葉文庫)

人間動物園 (双葉文庫)

県警に一本の電話がかかってきた。誘拐事件――しかし電話の主は、前日に犬の誘拐事件という間抜けな行動を警察に取らせたおばさんだった。そして近所では山羊が殺されるという珍事件も起きていた。「今度は猫ですか、猿ですか?」そんな同僚の声を聞きながら、発田刑事らは半信半疑で現場へと向かった。しかし今回は本当に人間の誘拐事件、しかもかなり特殊な――おばさんの家ではなく、隣家の娘が誘拐されたのだという。母と娘二人暮らしで慎ましく生活をしている隣家にはいたるところに盗聴器が仕掛けられており、内部の行動は犯人に筒抜け、もし警察を呼んだら娘の命はないと犯人から警告があったため、隣接するおばさんの家にこっそり手紙を書いて危機を知らせたのだった。身代金は一億円。貧しい母子に払える金額ではなかったが、娘の祖父、元夫の父なら支払える。元義父は今まさに一億円収賄疑惑の渦中にある大物政治家だった――。

文庫化したので購入。強引なところも多かったけど、面白かったです。
連城三紀彦の面白さって、普通は「ありえない」と思うことを堂々とやってしまうところにあると思う。不可能犯罪を扱うというよりも、現実世界の常識そのものをひっくり返すというか、例えば本書で扱われる誘拐事件だったら、子どもが誘拐されて身代金が要求されて、警察がやってきて逆探知などをする、というプロセスは普通なんだけれども、そのいずれもがずれていて、そのまま世界観のずれまで行ってしまう。
島田荘司とはぜんぜん違う意味で「豪腕」です。こんなミステリ作家は連城以外余り思いつきませんね。
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