北方謙三『水滸伝』第4巻

水滸伝 4 道蛇の章 (集英社文庫 き 3-47)

水滸伝 4 道蛇の章 (集英社文庫 き 3-47)

 前巻の終わりから、青蓮寺の罠にはめられた宋江が長い旅に出発して、行く先々で仲間たちに迷惑をかけまくることになります。
 最初は武松一人を供につれての二人旅でしたが、暴れん坊の李逵が加わり、李俊と穆弘とその一味などなどを味方にして、何千という敵に囲まれても見事に撃退します。梁山泊の仲間たちも気が気ではないと思うのですが、大物の宋江は飄々として旅を続けるという、何という天然キャラ。水滸伝ファンの間ではよく言われる、宋江の魅力が分からんという感覚を、北方謙三はこのたびで集中的に宋江を描くことによって解決しようとしているのですが、あまりにも天然過ぎてやっぱりよく分からん。
 宋江に比べると、李逵の魅力はストレートに読者に伝わってきます。北方謙三も、多分李逵は一番書きやすいお気に入りキャラクターなのではないでしょうか。黒旋風李逵といえば李鉄牛の名前でも知られ(北方水滸伝ではその呼び方はされてませんが)、鉄牛といえばそう、OVAジャイアント・ロボ」にも出演。直情的で乱暴ものだけど、大きな存在感がある魅力的なキャラクターとして描かれています。李逵のイメージだけは、どんな作品でも共通しているような気がします。
 さて、宋江が鄆城を出るきっかけになったのが、愛人の閻婆惜殺害事件。元はといえば宋江が悪いような気もするのですが、青蓮寺は宋江を犯人に仕立て上げて、婆惜の母親の馬桂を復讐者に仕立て上げます。ここからの人間関係の展開が凄い。馬桂を操るために、青蓮寺の李富は肉体関係を持つのですが、完全に彼女にほれ込んでしまいます。これまで梁山泊の側に人間描写は集中していたのですが、ここで李富という青蓮寺側の人物が、実に人間らしいキャラクターとして描かれるのです。後に登場する聞煥章や史文恭なども、巻が進むに従って人物像が明確になるし、こうして敵側の魅力を引き立たせるのも北方水滸伝の魅力ですね。