北方謙三『三国志』第10・11巻
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特にドラマティックだったのは張飛の死だ。『演義』ではお堅い劉備とまじめな関羽の引き立て役、暴れん坊の大酒のみというあまりにも可愛そうなキャラ付けがなされる張飛は、死の場面でも『演義』では本当にあっさりと死んでしまう。こんなつまらん死に方でいいのかと開いた口がふさがらないほど、『演義』は張飛に対して冷淡だ。しかし北方三国志では、張飛は、実は「仁義の人」劉備のミスを全て自分が引き受けるために、わざと暴れん坊の道化キャラを引き受けたことになっている。その結果、表向きは乱暴者だが、その実冷静沈着で優しさや人間としての強さを内に秘めた、完成された人間としての張飛、というキャラクターが演出される。それだけにその死の場面も、周瑜の愛人という重要なオリジナルキャラクターを絡めることで、卓抜した人間ドラマとなった。
このグッと来る演出の前には、むしろ呂布や関羽の死の場面はあっさりしすぎたと感じられるほどだ。
続く夷陵の戦いでは、『演義』ではまだまだ出番が残されているはずの関興や張苞までもが戦死してしまい、結局残された蜀の英傑は孔明と趙雲だけになってしまう。物悲しさを感じさせるとともに、残り2巻で描かれる孔明の北伐の苦難を想像させる展開である。