島田荘司『摩天楼の怪人』

摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)

摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)

 1969年、マンハッタンのセントラル・パーク・タワーの一室で、ブロードウェイの往年の大女優、ジュディ・サリナスが亡くなろうとしていた。今わの際、彼女は部屋を訪問した日本人の助教授ミタライに、自分の人生の中で犯した殺人について告白をする。1921年の秋、36階の自室にいた彼女は、「ファントム」の手を借りて1階の事務所にいたシアター支配人を射殺したというのだ。しかしそのときジュディのアリバイの穴は15分しかなく、しかも折からのハリケーンに見舞われて長時間の停電にあったセントラル・パーク・タワーでは、エレベーターが全て使えなくなっていた。彼女がいったいどうやって停電の中、15分間で36階分の往復を実行できたのか、彼女自身にも分からなかった。「あれは悪魔の奇跡、人間にできることではない・・・どうぞ、解いてごらんなさい助教授、もしも解けるものなら」
 彼女の人生の中で幾度となく彼女の障害となる人物を排除してきたという「ファントム」、窓もなく警備も厳重なタワーの中を自由に行き来する神出鬼没の怪人の正体とは? 1921年に続発したセントラル・パーク・タワーの悲劇はどのようにして起こったのか?――40年近くの時を超えた不可能犯罪の謎に御手洗潔が挑む。

オペラ座の怪人』にオマージュを捧げたタイトルどおり、ブロードウェイの花形女優に恋をした哀れな男がもたらす悲劇。しかし舞台は古典的なオペラ座ではなく、超高層ビルが立ち並ぶマンハッタンである。島田荘司のミステリにふさわしいスケールの大きな舞台設定と奇想を堪能することができる力作だ。
立て続けに連鎖する不可能犯罪も非常に魅力的だし、相変わらずの筆力で読ませる読ませる。ただ解決の仕方で物足りなさを感じてしまったのが残念。やはりかつての圧倒的カタルシスは、もう得られることはないのだろうか。
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