佐飛通俊『円環の孤独』

円環の孤独 (講談社ノベルス)
円環の孤独

2050年、人類史上初となる宇宙空間に浮かぶホテルの客室のなかで、殺人事件が発生した。殺害されたのは高名な探偵であるハロルド・メルヴィル卿(通称H・M卿)で、明らかに他殺と分かる状況であったにもかかわらず、現場は、卿本人以外には絶対に解除することのできないDNAロックがかけられた密室状態にあった。宇宙空間に浮かぶホテル内の殺人ゆえに、犯人はホテルの滞在客たち以外には考えられない。招待客の一人、日本の刑事シンは、イギリスの警視アーンショウとともに捜査に乗り出す。そこで浮かび上がったのは、ホテルのオーナーである大富豪バンコランたちがかつて体験した、過去の殺人事件だった・・・。

著者の言葉によると、佐飛氏は10代の頃にカーやチェスタトン、クイーンなどを読みふけり、自分でも作品を書いてみたいと思ったそうです。この著者が10代ということは1970年代。まだ新本格が登場していない頃で、つまり経歴としては、「本格冬の時代」に島田荘司などを学生時代に読んで興奮した新本格第一世代と重なるのではないかと。
そうした著者に対するイメージで本書を読んだわけですが、SF設定以外のところではなんら新しいところや驚くべき要素はなく、事前のイメージを覆されることはありませんでした。
ではなぜ、この作品が今執筆され、刊行されたのか。
「冬の時代」ならばともかく、今は本格の新作も旧作もたくさん読むことができるにもかかわらず。
既存の権威の破壊を望む若い世代の作品に対するアンチテーゼかもしれませんし、新本格世代であっても新しいものを求めて黄金期本格の香気を失ってしまった状況に対して、「またカーのような作品がもっと読みたい」という枯渇感から執筆されたのかもしれない。いわば80年代の本格シーンへの先祖がえりでしょうか。
ちょっと思ったことを書いてみました。新人にしては随分とオーソドックスすぎるな、と思ったからです。作品は普通に面白かったです。
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