道尾秀介『骸の爪』

骸の爪
骸の爪

ホラー作家の道尾は、小説の取材という名目で、滋賀県の山中にある仏所「瑞祥房」を訪問した。その夜、仏像の保管所に忘れ物をした道尾は、それを取りに暗闇を歩いていたとき、ある仏師が彫り残したという千手観音が笑うのを見、離れにある同じ仏師が残した鴉枢沙摩明王の周辺で「マリ…マリ…」と人の名前のようなものを繰り返す声を聞いたのだった。翌朝、仏師たちの前でマリという名前に心当たりがないか尋ねたところ、房主たちはたちどころに険悪な態度を見せて、道尾を追い出した。帰京して撮った写真を現像したところ、写し出された鴉枢沙摩明王の割れた頭からは、血が流れていた…! 道尾は友人の心霊探究家、真備庄介のもとを訪れる。

端正でまっとうな本格ミステリ。『背の目』が道尾版『姑獲鳥の夏』なら、本作は道尾版『鉄鼠の檻』か。とはいえ、前作が京極そのまんまだったのに対して、本作では京極の小説技術のいいところを吸収しつつ、模倣ではない自分の作品世界を作り上げていると思いました。
ホラー感覚やサプライズの質という点では『向日葵の咲かない夏』のほうが上。しかし解決編の美しさを買って、こちらもお勧めします。
>感想ページへ