鮎川哲也『準急ながら』

準急ながら 鬼貫警部事件簿―鮎川哲也コレクション (光文社文庫)
準急ながら

16年前、北海道の月寒で瀕死の重傷を負った女性を助けた海里昭子は、その美談について雑誌の取材を受けたが、掲載する際には名前も現住所も隠してほしいという前提をつけた。彼女には上京する以前に知られたくない過去があったのだ。――一方、愛知県の犬山で土産物屋を営む鈴木武造が、何者かによって刺殺されるという事件が起こった。警察は被害者と同行していたこけし商人の行方を追ったが、事件は不可解な様相を呈してきた。被害者の鈴木武造は偽名で、本物の鈴木武造は青森で生きているというのだ。被害者はなぜ自らを偽っていたのか。

ちなみに「準急ながら」の「ながら」は「〜しながら」や「残念ながら」の「ながら」ではなく、電車の名前です。漢字で書くと「長良」になるのでしょうか。わざわざこんなことを書くのは、初めてタイトルを見たときに、「準急でありながらも云々」というような意味にとってしまったからで、たぶん多くの人がそう勘違いするのではないかと同意を求めてみる。角川文庫版で『準急“ながら”」とカッコをつけたのは正解だと思います。
それはともかく、一応時刻表は登場しますが、そんなに時刻表とにらめっこしなくても楽しめるアリバイミステリです。鬼貫警部は後半の推理の場面で活躍しますが、前半はもっぱら部下の丹那刑事が靴底をすり減らします。全編に渡って鬼貫警部の推理を読みたい人にとっては不満ですが、サスペンス部分もなかなか読ませます。
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