赤川次郎『三毛猫ホームズの推理』

2年ぶりの更新です。その間、ほとんどミステリを読んでいません。一体何をしていたのか・・・生活環境はあんまり変わっていませんが、ミステリへの情熱はやはりまだ薄いようです。リハビリのために、原典回帰をしてみようと思いました。

三毛猫ホームズの推理 (角川文庫)

三毛猫ホームズの推理 (角川文庫)

いわずと知れた国民的大衆ミステリシリーズの最初の作品です。私がこれを読んだのは多分小学校高学年のときだったと思います。今見るとベタな恋愛に当時は大人の匂いを感じて背伸びをしていたのでしょう。
赤川次郎は当時大変なブームで、「セーラー服と機関銃」「時をかける少女」など映画とリンクした角川の猛プッシュで知られていました。メディアミックスの走りでしょうか。しかし彼の本格ミステリ作品の映像化は、よく考えると少ないかもしれないですね。「三毛猫ホームズ」シリーズも、かつて何度か2時間サスペンスになっていたのを思い出しますが、ドラマは長期シリーズにはなりませんでした。
さて、思い出話はこれくらいにして中身ですが、意外と覚えているものですね。猫が探偵役、という斬新なキャラクター設定はやっぱりすごいと思います。三毛猫ホームズのキャラ立ちは異常。30年経っても全然色あせないです。
一方、片山兄妹とホームズのキャラが立っていれば、あとはステレオタイプの人物を配置して連続殺人してできあがり、というお手軽さ、数々のお約束などドラマ中心のミステリファン安心のクオリティが、大衆ミステリたるゆえんでしょうか。
ただ、このシリーズ第一作は密室トリックが光っています。島田荘司もびっくりの大胆豪腕トリックには明らかな本格スピリットがあります。発表年が1978年だから、幻影城と同じくらいか。やっぱり新本格のひとつの源流であり、偉大な先輩なのではないかなあと思いました。人間の2次元脳では死角に入る3次元トリックといいますか。
あれ?でもこのトリック、結構その後の作家さんたちが応用して使っているような気がしますね。島田御大とか有栖川とか。天城一の密室トリック分類にも当てはめにくい、実に「新本格」らしいトリックといえましょう。
執拗などんでん返しも、お約束とはいえ気合が入っているし、主人の敵をとるために奔走するホームズの姿も第一作ならでは。リハビリにもってこいの一作でした。(★★★☆)