芦辺拓『三百年の謎匣』

三百年の謎匣 (ハヤカワ・ミステリワールド)

三百年の謎匣 (ハヤカワ・ミステリワールド)

傑作『紅楼夢の殺人』で2005年度インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞にも選ばれた、芦辺拓の最新作。そういえば森江春策ものを読むのも久しぶりですが、やっぱりイラストは止めてもらいたいなと(笑) 森江春作カッコよく書きすぎですよ。きたろーのイメージでは30後半のむさいけど人間味のある渋いおじさんのイメージなのに。これじゃ前に書かれたイラスト(『赤死病の館の殺人』だったと思う)より若返ってます。違和感ありまくりです。それはともかく。

 名探偵にして弁護士の森江春策の事務所のもとに、遺言書作成を依頼するために来訪した富豪の老人・玖珂沼瑛二郎。しかし口述筆記で遺言状の内容を伝えた後に老人は路地で何者かに殺害されてしまう。殺害現場は袋小路で、薄雪が積もっていたにもかかわらず被害者の足跡も犯人の足跡もそこには残されていなかった。森江春策のもとに残されたのは一冊の古い手稿本。何百年も前から比較的新しいものまで、時代も言葉も場所も異なる何人もの多種多様な人間が記した謎の本に魅入られ、森江春策はページをめくる・・・。

著者やその同年代の方がかつて楽しまれたであろう映画や小説などの冒険物がぎっしりと詰まっています。それでも古さを感じさせないのは本格ミステリの要素が入っているからなのか、著者の「物語」へのこだわりがそうさせるのか。アラビアン・ナイト、海賊冒険、秘境冒険、革命秘話、西部劇、ナチス・ミステリーといった「謎匣」にこめられたそれぞれの物語が面白いだけでなく、それらに隠された謎に共通性を見出して現代の事件につなげる(今回はかなり強引な)手腕こそが、芦辺拓の本領であり、この本が単なるノスタルジー冒険小説にとどまっていない理由だといえましょう。
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