ヤマハ吹奏楽団浜松「四季連祷〜長生淳作品集」

kitarojp2006-01-11

四季連祷〜長生淳作品集

  1. 波の穂
  2. 蒼天の滴
  3. 翠風の光
  4. 楓葉の舞

年末年始はずっとこのCDを聴きまくってました。もう何回も繰り返し聴いたけど、全然飽きない。すばらしい曲と演奏です。昨年は結構良いCDが多かった吹奏楽界ですが、これが最強かな。
マチュアの演奏だけど、たぶんプロでもこれ以上の水準で演奏するのは難しいでしょう。30年以上アマチュア吹奏楽のトップを走り続けたヤマハだからこそできた名演奏、名盤といえます。
ヤマハ吹奏楽団浜松は毎年定期演奏会で委嘱作品を披露して、コンクールではそのカット版を演奏しているのですが、ここ数年(2000〜2003年)は長生淳氏に作曲を依頼していて、いずれも高い評価を受けています。最初から意図したものではなかったそうですが、ヤマハ浜松委嘱4部作は「四季」をテーマとしていて、複雑な書法ながらも風景画のように情景がイメージとして脳裏に浮かぶ連作です。
コンクールで演奏されたのは6〜7分のカット版なので、全曲が録音されたのは今回が初めて。いずれも20分近くある大曲ですがまったく飽きさせません。当たり前のことですが、カット版では今ひとつ印象に残らなかった曲は改めて本当の魅力が伝わり、魅力的に思えたフレーズも前後の長い音楽の推移の中で浮かび上がり、より感銘度が高くなっています。コンクールでしか長生作品を聴いたことの無かった(私のような)人は、この連作の音楽的幅の広さに改めて瞠目することでしょう。
演奏も素晴らしい。ここ数年のヤマハの演奏は、昔と比べて派手ではあるけれども大雑把で、気合だけが空回りして音楽性が低いものが多かったように感じていましたが、今回の録音は技術・表現ともに圧倒的でした。新指揮者・堺武弥氏の音楽性によるところが大きいと思います。これからのヤマハがかなり楽しみになりました。
「波の穂」・・・冬の荒々しい海のイメージ。コンクール版では印象的なフレーズが随所で出てくるものの細切れで、忙しい曲だなあなどと思っていましたが、全曲版で聴くとすべてのフレーズが息の長い音楽的意図を持って連続しているのが分かります。解釈的には川村氏が指揮したときとあまり変わらなかったかな。他の3曲と比べると現代音楽風の進行も多く、面白い。
「蒼天の滴」・・・希望に満ちた春のイメージ。今回のCDでコンクール版と印象が180度変わったのがこの曲。前は4曲の中で一番雑然としてつまらないと思っていたのが、この演奏を聴いて一番好きな曲になりました。特に後半、うきうきと飛び跳ねるような木管のメロディが登場してからは、こちらの気分も浮き立つ気持ちの良い音楽。クライマックスのサスペンド・シンバルが素晴らしいですね。喜びが世界からあふれ出すようなラストにブラヴォー!
「翠風の光」・・・若々しくも苦難の道を歩む情熱的な夏のイメージ。この曲だけ4楽章形式(つなげて演奏される)なわけですが、特に第1楽章が上手いですね。やはり打楽器の用い方が効果的で、現代音楽の緊張感がびしびし伝わります。ただ派手なだけではない。静けさの中でかすかに響くシロフォン…第3楽章の導入、驚きました。そこから第4楽章までの計算された音楽運びもお見事。大人の演奏です。
「楓葉の舞」・・・楓の舞い散る紅あざやかな秋、そして別離のイメージ。コンクール版を聴いたときから気に入っていた曲なんですが、この演奏は想像を超えた素晴らしさでした。20分ほどの曲の中でひとつのテーマが幾種類も変奏され、そのそれぞれで寂しさ、激しさ、悲しみ、喜び、そして別れなどの感情が感じ取れます。各変奏を経てから流れ出るコラールは感動ものです。ファゴットなどのソロから始まり、次第にモノトーンの悲しみの色から鮮やかな紅の色へと変化していく。ラストのコラールは涙なしには語れない。内声を重視しているためか、微妙な和音の変化がダイレクトに聴く者の心を揺さぶる。テンポ設定がまた素晴らしい。コンクールの演奏よりもずっとゆっくりなのですが、絶妙なテンポでじわじわと感動が湧き上がる。最高の音楽でした。