北方謙三『水滸伝』を読み始めました

 半月ぐらい前から北方謙三の『水滸伝』(文庫版)を読み始めています。なんとなく本屋で立ち読みして、気が付いたらレジにいました。買って読み始めてから知ったことですが、全19巻だそうです(唖然)。少しずつ読んでいけばいいか、と気楽に考えておりました。
 ・・・が、もう9巻まで読んでしまいました。読む時間もあまりないのに、続きが気になって仕方がなく、ページをめくる手が止まらない。貧乏なのに、読み終えたらすぐに次の巻を買いに本屋に走ってしまうという、恐るべき中毒性! こりゃ全部読むのも時間の問題ですな。文庫じゃなかったらと思うと空恐ろしいです。
 さて、せっかく娯楽小説を読んでいるので、簡単な感想をアップしていこうと思います。とりあえず1巻。

水滸伝 1 曙光の章 (集英社文庫 き 3-44)

水滸伝 1 曙光の章 (集英社文庫 き 3-44)

 第1巻では原典どおり、王進、史進林冲のエピソードから始まります。のっけから驚くのが、花和尚魯智深がいきなり冒頭から登場するところ。この人、もうちょっと後の登場じゃなかったっけ・・・?などと思っているうちに、熱く宋王朝転覆の志を語る魯智深に引き込まれる。原典では魯智進はもっと野蛮で獰猛で破戒僧というのがふさわしい豪快なキャラクターだったわけですが、北方水滸伝では、最初から宋江の思想に共鳴した革命のオルガナイザーとして登場し、豪傑でありながらも非常に理知的な性格を与えられています。
 そもそも、原典では、宋に不満を持っていながらもそれほど明確な反乱思想を持っていなかった宋江が、この小説では『替天行道』という冊子まで用意した稀代の革命思想家として扱われているところも、驚きです。
 要するに、北方水滸伝は、四大奇書水滸伝』の焼き直しではなく、『水滸伝』を題材にまったく別の物語を構成しているのです。腐敗した宋王朝に対して反旗を翻した梁山泊の好漢たちの物語、という基本枠組みだけは外さず、登場人物のキャラクター、役どころ、運命を北方謙三の思い描く「水滸伝」の物語に配置していきます。原典を知っている人にとっては、それがスリリングだし、この先どうなのかという楽しみがあります。
 しかしそれ以前に、小説として面白い。第1巻の段階では、原典の素材自体の面白さでぐいぐい引っ張る感じはありますが、まだまだ始まったばかり。北方水滸伝の面白さはこれからです。

「unknown アンノウン」

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倉庫の一室に閉じ込められた男たち。ある者は縛られ、ある者は銃で撃たれて瀕死の状態etc.。しかし共通していたのは、その全員が記憶を失っていたことだった。自分たちは何者なのか、ここで何をしているのか。主人公たちは、かかってきた電話から、自分たちが誘拐事件にかかわっていたと推定する。この中の誰が犯人グループで、誰が被害者なのか・・・。疑心暗鬼の中で決死の脱出を試みるが・・・。
なかなか面白いミステリ映画でした。主人公たちはだんだんと記憶を部分的に思い出していって、その断片的な記憶から疑心暗鬼も深まっていくという設定。犯人グループは夜に戻ってくるのでそれまでのタイムリミットがあり、サスペンスをいやがうえにも盛り上げる。
記憶を取り戻すのは断片的なフラッシュバックで表現されるので、特別に説明がなされるわけではない。しかもテンポが異様に速いので見ている者は結構置いてけぼりを食うところもあります。それでも、最後のどんでん返しは結構感心しました。いわば誘拐ものミステリの定番を、記憶喪失という要素を絡めて斬新な形で表現した感じ。
最後の最後にもひねりがあって、油断できません。100分位の映画ですが、本当にあっという間でした。

今年初めての更新

なんと3ヶ月も更新停止しておりました。感想を書く余力もないし、このまま閉鎖してしまおうとも考えたのですが、やはり地味に続けていこうと思います。いつなんどき書きたいことが出てくるか分かりませんので。
というわけで、感想は準備中だけど読了した本を列挙してみます。とりあえずミステリのみ。

本陣殺人事件 (角川文庫)

本陣殺人事件 (角川文庫)

悪魔の手毬唄 (角川文庫)

悪魔の手毬唄 (角川文庫)

横溝正史の代表作がずらりと並んでおります。「本陣」は今更言及するまでもない傑作ですし、何度も読んでいるのですが、あとは実は未読でした。『三つ首塔』は金田一は脇役で、愛する二人の冒険小説風の展開が読みどころ。エログロ風の当時の風俗が小説に花を添えて、面白かったです。『悪魔の手毬歌』は有名な作品ですが、創作童謡を見立てに使うという発想は流石といえど、今ひとつ動機のほうに納得のいかない感じがしました。
妖盗S79号 (文春文庫)

妖盗S79号 (文春文庫)

古本屋で見つけた逸品。泡坂妻夫らしいひねりの効いたプロット。短編集ですが、S79号がどのような盗みを働くかというのはもちろん、S79号を生涯をかけて追うベテラン刑事のほうが、銭形警部のように愛すべきキャラクターになっていて、むしろ彼のほうが主役かもしれません。S79号の動機も良かった。こっそり社会派風味。
首挽村の殺人

首挽村の殺人

昨年の横溝正史ミステリ大賞ということで、いかにも横溝風の閉鎖された山村を舞台にした連続殺人。名探偵が登場しないので読者はちょっともどかしく感じるかもしれません。推理よりも雰囲気重視。人の犯罪よりも赤熊の恐怖が勝っているところもサスペンスの焦点がぶれていまいち。
君の望む死に方 (ノン・ノベル)

君の望む死に方 (ノン・ノベル)

傑作『扉は閉ざされたまま』のシリーズ第二弾。いろいろと言いたいことはあれど、まずは最後まで面白く読めました。

横溝正史『女王蜂』&『夜歩く』

女王蜂 (角川文庫)

  • 著者:横溝正史
  • 出版:角川文庫 1972年(初出1951/52年)

類まれな絶世の美女、大道寺智子は亡き母の遺言により、月琴島から東京にいる父の元に引き取られることになる。祖母や家庭教師とともに修善寺までやってきた智子らだが、そこで待っていたのは、4人の求婚者たちだった。しかし求婚者の一人がホテルで殺害され、さらにホテルの従業員の死体が発見されるという連続殺人が発生する。20年前に月琴島で起きた悲恋にまつわる事件はどう関係しているのか? 弁護士の依頼を受けて名探偵金田一耕介が犯人探しに乗り出す。

夜歩く (角川文庫)

  • 著者:横溝正史
  • 出版:角川文庫 1973年(初出1948/49年)

仙石直記は友人の小説家・屋代寅太に、自分たち古神家の一族が住む屋敷に一緒に来て欲しいとお願いする。古神家の美しい令嬢八千代のもとに舞い込んだ奇妙な手紙。求婚とも脅しとも取れる手紙の最後には、「汝、夜歩くなかれ」と。そのころ古神家では、八千代が招いたせむしの芸術家・蜂屋小市と、八千代の兄でやはりせむしの守衛が激しく対立していた。そして、夢遊病の症状を発した八千代が夜歩いた翌朝、せむしの男の首無し死体が離れで発見される。死体は何者か・・・?

 はまぞうを見る限りでは、どちらも現在新刊では手に入らない様子。『女王蜂』なんて最近もドラマ化されたのになあ。
 『夜歩く』は傑作。読んだ直後も凄いと思ったが、感想を書いているうちにさらに評価が上がりました。
>感想ページ

島田荘司『リベルタスの寓話』他

 読みためていた感想をアップ。

リベルタスの寓話

リベルタスの寓話

人柱はミイラと出会う

人柱はミイラと出会う

理由(わけ)あって冬に出る (創元推理文庫)

理由(わけ)あって冬に出る (創元推理文庫)

愚者のエンドロール (角川文庫)

愚者のエンドロール (角川文庫)

>感想ページ

石崎幸二『首鳴き鬼の島』&山口芳宏『雲上都市の大冒険』

雲上都市の大冒険

雲上都市の大冒険

首鳴き鬼の島 (ミステリ・フロンティア)

首鳴き鬼の島 (ミステリ・フロンティア)

 どっちも★3つをつけたわけですが、個人的にどちらが好きかといえば『雲上都市の大冒険』かな。ぜんぜんリアルじゃない炭鉱街の連続殺人だから、まるで御伽噺のように楽しめました。
>感想ページ

高田和夫編『新時代の国際関係論』

新時代の国際関係論―グローバル化のなかの「場」と「主体」

新時代の国際関係論―グローバル化のなかの「場」と「主体」

 大学のテキストに最適の入門的論文集。構成は以下の通り。

I 国際関係論への招待―国際関係の歴史と理論―

  • 国際社会の秩序 歴史と現在(高田和夫)
  • 国際関係の理論(松井康浩)

II 国際関係の新しい環境―国家をめぐる遠心力と求心力―

  • 国際社会のグローバル化(上垣彰)
  • 国境を越える人の移動(柄谷利恵子)
  • エスニシティと国際関係(定形衛)
  • 情報化と国際社会 東アジアにおける情報グローバリゼーションの進展とそのジレンマ(遠藤薫

III 国際関係の多様なアクター―国家を相対化する行為主体―

  • 国際機構の新しい役割 民族・地域紛争への国連の対応を中心に(木村朗)
  • 地域主義と国際関係論 グローバル化における地域の生成と再編(鄭敬娥)
  • 国際関係におけるローカリズム 国境地域における新「外交」の胎動(岩下明裕)
  • グローバル市民社会の登場(高柳彰夫)

 大変勉強になりました。